ありふれた恋でいいから
「須藤さん、知り合い?」

私の声に気付いた慶介さんが、振り返って尋ねる。

どんなに蒼褪めていたって、どんなに苦しそうに顔を歪めていたって間違える筈ない、その人の顔。

でも。

「…高校の、同級生です」

彼のことをそう表現するしか今の私には許されていなくて。
爪先から駆け上がる衝撃に必死で耐えながら彼の名前を伝えた。

「畑野さんですね?ここ、病院ですよ…」

看護師が名前を呼びかけ、畑野くんを乗せたストレッチャーは自動ドアを潜り処置室のある方へと遠ざかる。

その一連の流れを私はただ、見送ることしか出来ずにいた。
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