ありふれた恋でいいから
事務処理の関係上、処置室から連絡があるまで私が受付に残る事になった。

―――頭の中が混乱してる。

稀にある事態が起きただけでも十分動揺していたのに。
倒れていたのは畑野くんで。

いや、でも。
……あれは本当に畑野くんだったんだろうか。
だとしたらどうして倒れたりしたんだろう。

そんな、自分の目で見た筈の光景すら幻に思えるくらい、気の遠くなるような思いで連絡を待っていた。




『診察終わりましたので、あとお願いします』

『…はい、ありがとうございます』

処置室から依頼の内線があったのはそれから40分ほど後のこと。
どうやら、あのまま慶介さんが診察したようだった。


「…失礼します」

戸惑う心を落ち着けて処置室へと入ると、点滴を施された畑野くんがベッドに眠っているだけで、慶介さんは見当たらない。

備え付けられたプラスチックかごの中には、身に付けていた上着やネクタイ、腕時計が無造作に入れられていた。
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