ありふれた恋でいいから
「えっと…、なんで此処に…」

「驚いたでしょ。私ね、ここの受付で働いてるんだ」

だから畑野くんの保険証を預かりに来ました、なんて仕事の顔で繕うことが出来るくらい、私たちは大人になったんだ。

「ここって…病院で?」

「うん。大学卒業してからずっと」

「そう…なんだ」

言葉に詰まる彼の言わんとしていることは何処と無く分かってしまう。

だって畑野くんは図書館司書を目指していたあの頃の私しか知らない。

読書が好きで、図書委員ばかりやってて、数学をはじめとする理系科目はからきしダメな私しか知らない。

そんな私と病院の受付なんてなんだか上手く繋がらないだろうから。
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