☆子犬系男子にご用心☆


「早く支度しなさい。送っていかなきゃいけないんだから。仕事に遅れるわ」



お母さんはシンクに向かい洗い物をしている。
一度も、こっちを見ることはなかった。



「・・・一人で行くからいいよ。松葉杖にも慣れないといけないし」

「・・・ああ、そう。じゃあ気をつけなさい」

「うん」



私はそのまま洗面所に向かった。
沈みきった心を顔を洗って無理やりスッキリさせる。

傷ついてなんかない。
悲しくなんかない。



そう言い聞かせながら。




「いってきます」




準備を済ませ家を出る時にだって、見送りに来てくれることはない。
“いってらっしゃい”そんな言葉が背中を押してくれることもない。




そんな事、もう慣れた。





慣れたんだ。






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