軍平記〜女剣客、一文字〜
帝都炎上編
序
七本国の中枢である「都」
ここには朝廷があり、他国からは帝都と呼ばれている。
事実、他の六国は覇権を争うも都には手出しできない。
力を失った都と言えど、未だに天帝の影響力は無視できない存在である。
天帝近衛師団・首席師団長一文字凛(いちもんじりん)は、女性で初めて首席師団長になった。
天帝が少女である為、異例の抜擢であった。
凛は年齢にして二十歳。
立ち居振舞いは無駄が無く、所作も美しい。
馬の尾のように後ろで黒髪を一本に束ね、富士額の大きな目。鼻筋は綺麗に通り、唇は桜紅の薄桃色。背は一メートル六十程で、程よい胸とスッと伸びた足。
色は雪のように白く、とても武将には見えない。
事実、婚姻を求める声は後を断たない。
しかし、凛は頑なに断っていた。
「これはこれは首席師団長様。」
凛に声を掛けてきたのは次席師団長・壱岐晋輔(いきしんすけ)であった。
この男、かなりの使い手だが、首席師団長就任を掛けた御前試合に、凛に惜敗している。
それから事あるごとに、凛に絡むのである。
本人は実力で負けたとは思っていない。
帝が少女の為、負けるべくして負けたと思っていた。
「内裏を女が歩くのはいささかお疲れになるでしょう。わたしが代わりに見廻りを致しましょうか?」
ニヤニヤと笑いながら凛の行く手を遮る。
凛は黙って壱岐を避ける。
「おっと、人がせっかく話し掛けているのに知らんぷりですか。流石は首席師団長様。畏れ入ります。」
壱岐は尚も悪態をつく。
凛は完全に無視し、先へ行こうとする。
「おい、おい。ちょっと待て!」
壱岐が凛の肩に触れようとした時、壱岐の顔面に突如手刀が表れた。
息を飲む壱岐。
「次席師団長。御前試合はあくまでも模擬戦。殺す事が目的では在りません。」
続ける凛。
「お望みならこの拳で、あなたのその耳障りな喉を掻き切ってご覧に入れますが。」
静に言う凛の眼は、背筋が凍る程冷たい。
「くっ!流石は野蛮な剣術・一文字流の跡目だ。気色悪い!!」
捨て台詞を吐いて逃げるように壱岐は立ち去った。
凛は何事も無かった様に内裏の警護を再開した。
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