軍平記〜女剣客、一文字〜
「鼎!一体何が在った!」
凛は息を切らせて疲れきった鼎に声を掛けた。
「師団長様・・・。才原伊都と柊冬が、この湖の生き物に殺られました。」
青ざめ、苦しそうに凛に言う。
一同は色めき立つ。
「そ、そんな馬鹿な!あの二人はかなりの使い手だぞ!」
一人が言う。
「ムカデと人の肉を喰らう魚がこの湖に居るのです。」
鼎は有りのままを皆に話す。
「くっ・・・。信じられぬ・・・。二人も殺られるなど・・・。」
凛は目を伏せて言った。
「何かが迫る前に、必死に知らせに来ましたが・・・。
恐らくは、火原もやられたやも知れませぬ・・・。」
鼎秀峰はそう言って気を失った。
凛は将校の全員に聞いた話の子細を伝えた。
将校達に緊張が走る。
「よいか、この湖には我々の考えも及ばない何かが数多存在している。
くれぐれも気を抜かず、決して1人に成るなよ!」
「はいっ!」
全員が返事をした。
「3人を・・・。この短時間で失うとは・・・。」
沈痛な面持ちの凛。
最廉の話を思い出していた。
琵琶湖の生き物は、九頭竜の毒気に充てられている。
人外の生物が今この島にも網を張っているかも知れない。
先程祠に潜ったが、恐らくはこの島に何かしら秘密が在るのかも知れない。
凛は将校二名を連れて、先程の祠に向かう事を決めた。
向かうに辺り、最廉から聴いた琵琶湖の話も将校達に聞かせた。
一様に緊張感が増す。
十五名の将校は、陣を構えるべく支度を始めた。
凛と夜目が利く葛城雲雀(かつらぎひばり)、短刀の達人・柏伯夜(かしわはくや)の二人が一緒に祠へ入る事にする。
「もしも、我等が明日にも戻らぬ時は、速やかに陣を引き払い、叡山へ撤収せよ。」
と、言い残し三人は島の祠へ入って行った。
不気味な静寂が島を包む。
得体の知れない何かの恐怖が、夜闇と共に静かに忍び寄ってきていた。