軍平記〜女剣客、一文字〜
天井の暗闇から突如として襲い掛かってくる3匹のコウモリ。
犬に翼が生えたかのような姿は不気味だ。
葛城は刀を構え、戦闘体制に入った。
腕目掛けて牙を突き立てたコウモリは、体格とは裏腹な俊敏な動きを見せて、腕を食いちぎろうとする。
葛城は刀で払いのけた。
すかさず、体勢を立て直し又襲ってくる。
柏と凛にも襲い掛かってくるコウモリは、容赦なく食らい付いてくる。
ゴマ壇に火を灯し、暗い洞内は昼間の様に明るくなった。
まずは、視界を確保しなければ、戦いもままならない。
葛城は、尚もコウモリと応戦していた。
視界を確保した事によって、
又、火の明かりによってコウモリ達はたじろいだ。
その隙を逃さずに葛城は止めを刺す。
エギャアア……。
コウモリは不気味な断末魔の声を発した。
柏と凛も二匹を倒す。
静寂が辺りを包む。
「やったのか?」
凛は二人に囁く。
「襲ってきた奴は倒した筈ですが……」
尚も静寂が辺りを包む。
バサバサバサ……。
羽のバタつく音が、洞内の上空から聞こえた。
「葛城!上だ!!」
凛は叫ぶ。
コウモリが葛城を目掛けて凄まじい速度で襲い掛かってくる。
グギャャャッ!!
凄まじい声で葛城の腕に噛みついた。
数は先程の倍は居るであろうか。
葛城に噛み付いたコウモリは、振るっても離れない。
「うっ……ま、まずい……」
牙が葛城の腕に突き刺さる。
「大丈夫かっ!」
凛は刀を振るい、腕の皮一枚でコウモリを斬首する。
血が葛城の腕から滴る。
尚も迫るコウモリの羽を切り落とした柏は、
体勢を立て直しながら次の攻撃を放つ。
羽を切られたコウモリは、地を這いながら柏に食らい付いてきた。
柏の足に鈍痛が走る。
「ぐっ……」
思わず身を屈める柏の頭上には、容赦なく襲い掛かるコウモリ。
柏は刀の刃を上に向け、気配のみで貫く。
返す刀で足に噛み付いたコウモリの体を切る。
あろうことか、切り離された頭は歯を突き立てたまま、柏の足から離れない。
両手で頭を剥ぎ取る。
コウモリは尚も襲い掛かってくる。
凛は電光石火の如く、残りの3匹を切り伏せた。
「師団長……」
柏が小さな声で凛に言う。
「洞の天井を……ご覧ください……」
凛は言われるがまま上を見上げた。
「こ、これは……」
凛は息を呑んだ。
洞窟の広い天井には、無数の犬ほどもあるコウモリが、
いっぱいにぶら下がっていた。
おぞましいほどの数。
不気味にゴマ壇の炎に揺らめく影。
影の揺らめく九頭竜の岩盤から、小さな石が落ちてきた。