軍平記〜女剣客、一文字〜
何者が九頭竜の封印を破ろうとしたのか?
目的は何なのか?
それは未だ解らない。
天井のコウモリに気をつけ、凛は、負傷した葛城と柏を守らなければならない。
ゴマ壇の炎はまだ赤々と燃えている。
突如、天井のコウモリは出口に向かい動き出した。
おぞましい数のコウモリは、まるで黒い天の川のように、けたたましい声を発しながら出口を目指している。
俊敏に、速く、怒濤のように。
「こ、これはいったい……」
凛は身を潜めながら息を呑んだ。
洞窟の、正確には九頭竜の居る辺りの壁が崩れ始めた。
バリ……。
バリバリ……。
ゴゴゴゴゴッ……。
地響きと崩壊。
このままでは危ない。
この祠が崩れてしまう。
凛は、
初めてその時、壁に埋め込まれた九頭竜が動いている事に気付いた。
それは誰も予想だにしていない事態だった。
あくまでも、古に伝わる伝承の物語と言う認識しか無かった凛達は、
まさかその伝承が、目の前で現実のものになるとは思ってもいなかった。
封印が少しずつ解けていく九頭竜は、
ゆっくりと、体を動かし始めた。
埋め込まれた体が姿を現す。
幾重にも纏われた強靭な鱗の肌。
神殿の支柱のような長い爪。
蛇腹には模様の様なものが浮き出ている。
おそらく何年も洞窟に封印され、その痕跡を示すように、苔が模様を形成しているのだろう。
洞窟内は地響きと砂ぼこり、そして落盤が起き始めた。
3人は物陰に隠れた。
「大変な事になった……」
凛は表情に、事態の深刻さを滲ませていた。
途方もない大きさの九頭竜の影が、
ゴマ壇の炎に照らされ、蠢いている。
九頭竜の全長は未だに確認できないが、広場ごと破壊して、洞窟を突き破るのは時間の問題に思えた。
葛城と柏は、先程のコウモリの攻撃を受けて、何らかの毒を受けている様だった。
二人の衰弱は早い。
しかし、放っては置けない。
だが、このままでは全員が瓦礫の下敷きに成ってしまう。
凛は考えを巡らせるが、九頭竜は考えるよりも早く復活していく様だ。
尚も洞窟は崩落を続けていく。