軍平記〜女剣客、一文字〜
一文字流は剛剣ではない。
しかし、いかなる攻撃も受け流し、受け流した隙に急所に一撃をもたらすのが奥義だ。
自ら攻撃を仕掛ける場合、全ての防御を捨てて刀に全霊を込めた一撃を放つ。
かなりの確率で相手を斬壊出来るが、暫く動けなくなる程に精神と体力を奪われる。
凛はその奥義を、九頭竜に対して発動させる。
一撃必殺の奥義、表一文字斬り
凛は跳躍し、巨大な岩ほどもある頭に向かい一文字斬りを放った。
空気が震える。
ズザンッ……。
九頭竜の頭の一つが落下する。
しかし、無情にも凛の刀は粉々に砕け散った。
ギュギャアオオオオッ!!!
雷号のような雄叫びが、洞窟にこだました。
大量の血液と言うか、体液と言うか、
得体の知れない液体が溢れ出した。
凛は、脱力したままその体液の中に崩れ落ちた。
凛の体は動かない。
このままでは九頭竜の神殿の支柱のような脚で踏み潰されてしまう。
九頭竜は無闇にのたうち回り、洞窟の天井や壁を破壊し尽くす。
やがて祠の洞窟は崩れ去り、島の空が見えた。
表にいた将校達は、大量のコウモリの出現と、
地震のような地鳴りに備え、臨戦態勢をとっていた。
やがて、激しい雄叫びを上げて、九頭竜が将校達の前に現れた。
その巨大な姿に、将校達は呆気に取られ、身動きがまったく取れなかった。
そして、呆然と8本の首だけになった九頭竜を見上げていた。
ゲギュゴゴォォォォッ!!!
8本の頭は同時に叫ぶ。
将校達の耳に凄まじい轟音が響く。
夢か現実か解らないような不思議な感覚に苛まれる。
今までに見たこともない生物の出現は、琵琶湖に忽然と現れた島のように将校達には映った。