軍平記〜女剣客、一文字〜
「りん〜!りんはどこじゃ〜。」
宮中に可愛らしい声が響く。
声を聞き、凛が近付いてくる。
「おお、りん!そこにおったな!」
「天子様、どうなさいましたか?」
凛に抱き付いたのは天帝いろはである。
「りん。宮中はつまらん!どこか連れていって!」
無邪気に凛に甘えるいろは。
「天子様、そんな事仰ってはいけません。また、宰相様に叱られます。」
「よいのじゃ、りん。おじうえがおれば、ワタシは必要がない。宮中の決まりごとだけやれば良いだけじゃ。」
いろはは幼くても賢い。
「では天子様、一緒に毬遊びでもやりましょうか。」
凛はいろはに言う。
「おお、そうじゃな!やろうやろう。」
いろはは無邪気に笑う。
前天帝に男子は居なかった。一人娘のいろはを大切に育てた。
病に伏した時も、舞鶴法王に全てを託し逝去した。
舞鶴法王は早くに仏門に帰依していた為、子供は無く、いろはを自分の子供のように可愛がり、厳しく教育していた。
いろはの母親は、宮中でもとりわけ美しい女性だった。
明るく華やかで優しい母だった。
都に疫病が流行した時、自ら率先して人々の救済に当たり、結果病を受けて亡くなってしまった。
いろはは、凛を姉のように、また、母のように慕っていた。
凛もいろはを、身分を越えて慈しんでいた。
「師団長様、宰相がお呼びです。」
いろはと遊んでいた凛に兵士が告げる、
「うむ。すぐに行く。」
「天子様、申し訳ありません。宰相様に呼ばれましたので行って参ります。」
「りん〜・・・。」
半べそのまま凛を見送る。笑いかけ、いろはの手を握る。
「天子様を中へお連れしろ。」
凛は侍女に命じ、宰相のもとへ向かった。