軍平記〜女剣客、一文字〜
「師団長、呼んだのは他でも無い。今年の夏に行われる展覧試合についての話なのだが・・・。」
宰相・舞鶴法王は小声で言う。
「南朝に、この展覧試合で何かを画策する動きがあるようなのだ。」
「はい。それで、何かと言うのは?」
「うむ。今調べておる所じゃが、どうやら内裏に対して何かを仕掛けるつもりらしい。」
「煽動ではありませぬか?この時期にそのような噂を流すとは。」
凛は宰相に聞く。
「かも知れぬ。しかし、何らかの動きを近々起こす可能性も有る。」
「そこで、展覧試合までの間、天帝様を叡山に避難させる。近衛師団将校達も守りに参加させる。」
凛は驚く。
「事を仕掛けるなら、おそらく展覧試合当日ではないでしょうか?
まして、今から叡山へ向かうとなると、内裏の警護が手薄になってしまいます。」
「奴等の狙いはワシの命だ。そもそも政を決めているのがワシだからな。
まずは、ワシを殺し、いろはを傀儡にし、都を意のままにするつもりだろう。」
「展覧試合までの間、仮にワシが殺されようと、天帝様と師団将校が無事なら、南朝に対抗出来うる勢力となるだろう。
だが、天帝様の命が奪われたなら、大義が立たず、賊軍になってしまうからな。」
「今夜、秘密裏に実行する。因みに、この内容を知っているのはワシと、凛。二人だけだ。」
「南朝に情報が漏れぬよう信用できる将校を集め、叡山へ行け。」
「はい。宰相様。」
宰相の執務室から出る凛。
凛はそのまま天帝に会いに行く。
「いろは様。嬉しい報告がございます。」
「お〜、りん!なんじゃ、なんじゃ!」
いろはは目を輝かせる。
「叔父様から、しばらくの間、叡山の別荘へ行くようにと言われました。」
「な、なんと!まことか!久しぶりじゃな〜。叡山とは。」
「今夜、星見がてら叡山へ出発致します。今から急ですが、準備を始めてください。」
「お〜、すぐ準備するぞ〜!!」
爛漫ないろはは寝屋へ向かい走って行った。
凛は侍女を呼び、避難とは言わず、静養のため叡山へ向かうと伝えた。すぐに準備をするように申し付ける。
近衛師団の将校を集め、これから選抜する。
人選には細心の注意が必要だ。
腕がたち、天帝に忠誠を誓い、命を投げ打つ覚悟のある者。
内裏の警備も考えながらだと、叡山への警護は精鋭数十名程度である。
心当たりのある将校に打診していく。