軍平記〜女剣客、一文字〜
「火原一騎(ひばらいっき)!」
「はい!」
「鼎秀峰(かなえしゅうほう)!」
「はい!」
「以上二十名、首席近衛師団将校、これより叡山護衛の任務に就く。」
「出発は今夜二三丸々、内裏裏門、玄武門に集合。」
「はい!!」
一文字凛は、二十名の精鋭を集めた。全員女性の警備部隊である。
首席近衛師団の腕利きの男達は内裏に待機させる。
内裏の軍組織は、頂点に宰相が居る。
天帝と宰相の直属の部隊・首席近衛師団は500名。
次席近衛師団1000名
第三から第十近衛師団も1000名。
合計9500名からなる近衛師団。
所属は分かれるが、諜報庁(鞍馬天狗)が500名。
内裏には10,000の兵力が事実存在する。
凛はその中から女性ばかり二十名を選抜した。
いずれも一文字流の門弟達である。
一文字流は都に古くから伝わる天帝を守護する剣術だ。
開祖は一文字風斎(いちもんじふうさい)。
戦乱で研かれた野獣の剣術である。
朝廷が開く展覧試合で鮮烈な強さで優勝し、朝廷の剣術指南に召し抱えられた。
その後様々な戦で活躍をした一文字流の剣客達。
しかし、一文字菊水が死んだ後、衰退し、今は士焔流(しえんりゅう)が剣術指南を勤めている。
一文字凛は一人、幼少より父菊水に一文字流を叩き込まれた。
一人娘だった凛にあらゆる軍学、学問、作法を叩き込んだ。
あたかも自分の命が尽きる事を悟っていたかのように。
元々並外れた素質を持った一文字凛は、綿のように全てを吸収した。
十歳の頃には、既に父をも越える俊敏さと洞察力を身に付けていた。
凛、十歳の時政変が起きた。
朝廷は二つに割れ、都は戦火に焼かれた。
父、菊水は近衛師団を率いて山城上皇軍と戦う。
山城忍軍は手強かった。
深傷を追うも、菊水は勝利し、舞鶴法王に凛を託し絶命した。
凛は侍女として宮中に入り、生まれたばかりのいろはの面倒を見ていた。
遊び相手になり、子守りをし、共に眠った。
凛、十五歳の時、舞鶴法王は一文字流の再興を決意し、凛に道場を開かせる。
今回の将校達は、そこで剣術を学んだ。
皆、戦禍の孤児で、舞鶴法王が助け、宮中で侍女として仕えさせていた。
その女性将校と共に、凛は天帝いろはの護衛役として、比叡山別荘へ向かう。
展覧試合まで、あと一月。
誰にも気取られる事無く、療養という目的で。