軍平記〜女剣客、一文字〜



「宰相殿、天帝様は何処へ行かれましたか?」


壱岐晋輔は宰相に訪ねる。

「うむ。鞍馬山へ前天帝の法要に向かわれた。当分は戻らぬ。」

宰相は真実を伏せた。

「壱岐よ、凛も付き添っておるため、臨時ではあるが首席近衛師団との兼務を頼む。」


「はい。それは構いませぬが、展覧試合にはお戻りになるのですか?」


「うむ。展覧試合までにはお戻りになるはず。暫くは鞍馬で静養もなさるご様子だ。」


「・・・。解りました。内裏の警護抜かり無く勤め上げます。」


壱岐晋輔は執務室を出ていく。




鞍馬とは、朝廷直属の諜報組織である。

天狗と言う忍者集団が各国に散らばり動向を探っていた。


鞍馬の天狗は、朝廷内において最も力がある派閥に属し、暗躍する。

鞍馬天狗を味方に付ければ様々な謀略が容易に運ぶとして、権力者達はこぞって手を結ぼうとした。

天帝の位牌は鞍馬に納められている。



今現在、鞍馬天狗は中立の立場を保っている。

北朝にも南朝にも付かない。

所属は北朝近衛軍ではあるが。




凛達は夜遅くに比叡山の別荘に到着した。


簡素な書院造りの建物だが、広大な庭には様々な植物が植えられ、季節には目を楽しませてくれた。


約一月、南朝も含め味方の目も欺き続けなければならない。


二十人の将校と凛、そして天帝達の夏が始まる。

この別荘潜伏中に将校達の更なる成長を目指す。
叡山には七本国を代表する宗門「延暦寺」がある。
壮絶な修業の場所でもあり、徳を積んだ僧侶などは人外の法力を使うと言われている。


朝廷の菩提寺は延暦寺である。

三山信仰が朝廷の埋葬方法であり、仏間は鞍馬山。
霊廟は比叡山。

霊魂は鳥羽伊勢山。と、三ヶ所に分けられ、それぞれの山で日々儀式が執り行われている。


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