レトロな時代のピュア物語
――この国の鎖国政策が終わりを告げ、《機械》がこの国に急激に押し寄せたのはつい数年前の事。その際、電話という代物もこの国に一斉に広まり、この国に電話が普及し始めた頃、二つの様式の電話が主流となっていた。一つ目はケーブル式の電話回線。ごく一般の町並みに見られる電柱の類にぶら下がっている黒い電線仕様の物だ。二つ目はアンテナを使って電波でアンテナとアンテナ間を結び交信するという物。この町では一つ目の仕様の、電線を使って電話を浸透させようという計画が当初はあった。ケーブルでこの町の特色が他の町まで広まる事を聞いたこの町の旅館組合は一番に喜んでいた。だが、それが町にむやみに木の棒をいくつも立てて黒い糸、つまり電線が町中にクモの巣のように覆い被さると知った時、一番に反対したのもこの町の旅館組合だった。この町の、観光の町としての美観を損なうとして。その意見に町民も大半の者が賛成だった。二つ目の方法、アンテナを使って電話をこの町に普及させるという方法も、やはりケーブルを町に巣くう程ではないにしろ美観を損なうという意見が出た。……まだこの時期、電話がどれ程までに有益な代物かなどと気づく者は、「さほどいない時期の数年間」だったのだ。だが、アンテナを使う電話の使用方法は大きな財力を持つごく一部の町民には密かに広まりつつあった。しかしそれにも問題はあった。