龍華寺 四葉と書いて、救世主と読め。
四葉がバイクで迎えに来た菜種(なたね)の後ろに乗り、二人乗りで帰ったあと。
「七五三(ナゴミ)。そろそろ稽古のお時間ですよ」
にこやかな笑顔を携えた着物姿の祖母がナゴミを呼んだ。
ナゴミの祖母である一条 山茶花(いちじょう さざんか)は、とても七十代には見えないくらい姿勢が良く気品溢れている。
その為か孫の呼び方が『七五三』とちゃんと漢字で呼んでるように聞こえるから不思議だ。
「あ、はい。分かりました、おばあちゃま」
常に持ち歩いている薙刀を手に取り、道場の方へ祖母と歩いた。
道場へ続く外廊下は夜になると暗くなってしまう。
前を歩く足を踏まないように、ナゴミは山茶花の後ろをすり足で歩いた。
「七五三、今日いらした方はご友人ですか?」
「はい。そうです。龍華寺 四葉さんという、警視総監の孫娘だそうです」
「あら、警視総監の……そうですか、お友達は大切になさってね」
「はい」
祖母と孫のたわいない会話だが、どこか緊迫している。
ふっと山茶花が足を止め、中庭の茂みに惹き付けられるように目を向けた。
「……七五三」
「……はい」