引っ越し先はあたしの隣⁉︎






「好きだよ」

隼田くんがあたしの目をみて言った。



──え。


まわりのすべての音が消えた気がした。

それでもひとつの音だけは繰り返して聞こえてくる。



『好きだよ』が。



「あのさ、木下は俺と同じ気持ちじゃないと思うんだけど、」


隼田くん、同じだよ。

そう言いたいのに言葉が出ない。


……意気地無し。



「ほんとだから。嘘じゃないよ」


隼田くんの目はすごく力強くて本当なんだってことが伝わってくる。


それなのにあたしは……。

悔しい。すぐに伝えられないのが。
悔しい。笑えないのが。

なんですごく嬉しい言葉なのに、喜べないんだろう。


逆に、悲しい。


「俺と付き合ってくれませんか?」


うう、なんでこんな真っ直ぐに伝えてくるの?



嬉しいはずなのに返事できないまま、ただ隼田くんを見つめるだけ。



あたしも、好きだよって言うだけじゃん!

そんな簡単なことができないの?


隼田くんと一緒の気持ちなんだよ?



心の中で違う自分が言う。



「木下」

隼田くんの声が近くに聞こえる。


目線の先には隼田くんの靴が見える。目の前にいるんだ。


うつむいたままそう思った。



──グイっ。



「っ!!!」


また隼田くんの腕の中に入ってしまったみたい。



今のあたしには逃げるとかそんな感情はなくて、ただボーッとしてるだけ。



「木下、好きだよ」


耳元で囁かれてしまった。


くすぐったい。


がんばれ、舞美。

そう心の中で呟く。


「はやたくっ……」

名前を呼んだら涙が出てきてしまった。



そんなあたしを見て隼田くんは優しく笑って親指で涙をぬぐってくれる。


そして深く息を吸った。



「あたしも、好きだよっ……っ好きです!」



泣きながらだけど、ちゃんと隼田くんの目をみて伝えた。







< 109 / 237 >

この作品をシェア

pagetop