引っ越し先はあたしの隣⁉︎
十字路に差しかかり、なっちゃん達と別れようとしたその時。
聞き覚えのある声があたしを呼んだ。
ドキンと心臓が跳ねた。
そしてどんどん加速する鼓動。
なっちゃんに目を向けると、大きく開けた目があたしの後ろを捉えていた。
「……木下だよね?」
そう言って後ろから近づいてくる足音。
みんなはなんであたしがこんなに怖がっているのか不思議に思ってるだろう。
でも怖いの。
会いたくもないし、声も、顔も、見たくない。
「……木下、大丈夫?」
隼田くんがボソッと小さな声で尋ねる。
あたしは黙ったまま隼田くんの袖を掴んだ。
掴んだ手は微かに震えてる。
その手を大きな手が優しく包んだ。
「……大丈夫」
そう言ってギュッと握ってくれる。
「やっぱり、木下じゃん!久し──」
「ちょっと!近付かないでよ!!」
近くにアイツが来ると、なっちゃんが声を荒らげた。
その声に微動だにしないアイツは
「あれ?飯島じゃん」
とキョトンとした顔でみる。
「なに、怒ってんだよ。ヒデぇなー」
そう言ってからあたしに向き直った。
視線を感じるんだけど、顔が上げられない。じゃなくて、上げたくない。
早くここから離れたい……。
せっかく幸せな気分だったのに、なんで会ってしまうの……?
「あー。俺達帰るからもういい?」
隼田くんはそう言ってあたしの手をもう一度握り締めてから歩き出した。
──っ!?
ガクンと立ち止まるあたし。
それに続いて隼田くんも立ち止まった。
右手首が熱を帯びているのを感じて、恐る恐る振り向いた。
「待ってよ。まだ話してんじゃん」
少し掠れた低い声。
ゾクッとした。
今まで聞いたことのない声だったから。
「てか、誰。そいつ」
あたしの隣に立つ隼田くんに視線を向けるアイツ。
……問われてる。
そりゃ、聞くよね。あたしの手を握って一緒に帰るんだもん。
……っ、話したくない。
でも、ここは逃げちゃいけない気がした。
「か、……彼氏、だよ」
言葉につっかえながら言った。
言った……!
すると、アイツは鼻で笑った。
「はっ?!カレシ?木下に彼氏?!……ジョーダンでしょ、やべぇ」
っ!!
サイアクだ。やっぱり言わなきゃ良かった。
なんで、笑われないといけないの?
やっぱり太ってるから?
デブだから恋しちゃいけないの……っ?
彼氏いちゃダメなの……っ?
悔しくて悲しくて何もかも拒絶せれてるような感覚が心を埋め尽くすと、ポタッと地面に滴が落ちた。