引っ越し先はあたしの隣⁉︎






教室にいるみんながドアに視線を向けた。

もちろんあたしも。


だけど見てはいけないものを見てしまった感覚が全身に走った。


──っ。

サイアクだ。なんでこんな時に来るのよっ。


アイツは誰かを探しに来たみたい。


大丈夫、だいじょうぶ……。

そう何度も自分に言い聞かせる。

下向いてるし、目も合ってないし。なんも問題ない。
だから大丈夫。


それでもどんどん速くなっていく鼓動。

早くどっか行ってくれないかな。
これから出番だというのに。

このままじゃセリフが飛んじゃいそうだよ。


「そこの!水色の服きてる人!飯島って女子知らない?」


大きな声で水色の服を着てる人に呼びかける。


……あたしも水色の服だけど、ドレスだから。関係ないよね?


……。


やっ、関係なくない!?
今アイツ『飯島』って言ったよね……?
しかも『女子』って!

頭に浮かんだのは、なっちゃん。

でも、他の子かもしれないしっ。


無意識に握った手が汗ばんでくる。


「ねえ!飯島って女子知らない?」


間近で聞こえる声。

目線を少しずらすと、黒と赤のチェック柄の靴下が見えた。


ウソ……っ!?
ち、近いし……っ。

どうしよ。

なんであたしなのー!


顔上げたくない。見たくない。
だからさっさと出てってよっ!!


「ねえ、聞いてる?」


そう言ってアイツはあたしを覗き込んだ。







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