引っ越し先はあたしの隣⁉︎
次第に熱くなってた会場は静かになってて、なにやらあまりウケない漫才を披露してるらしい。
クスッと笑う声は聞こえるものの、みんなには不評みたいで。
あたしは見ていられないと思ってしまった。
そだ。今なら外に出ても良さそうだよね?
ちょっと喉乾いたし、風にあたりたいから。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね」
そばにいる2人にそう言って、体育館を出た。
重い引き戸を開けると──ヒュっと肌寒い風が頬をなでた。
もう冬、だもんね。
一年中温かいあたしはあまり寒さを感じないけど、これは流石に寒いと感じた。
だって、熱い室内から出てきたんだよ?!
こんな体型でも肌は正直なんだから。
お手洗いと体育館をつなぐ通路を歩きながら、自分に言い聞かせた。
購買が見え、通路を挟んで右側に自動販売機があるんだけど──ガコン、と鈍い音が静かな空間に響いた。
躊躇しつつも向かう足は自販機から缶を取り出した人物をみて、止まる。
自販機の光が反射して彼を照らしているから、誰だかすぐに分かった。
やばいと思って引き返そうとしたけど何故か体が動かない。
……まるで、金縛りにあったかのように。
「木下……?」
先に口を開けたのは岩島だった。
次第に近付いてくる足音にビクッとする。
逃げる事はいくらでも道はあるのに、動けないから直ぐそばに来られてしまった。
そばといっても、1mくらいは離れている。
たぶん、あたしが震えてると分かった上でこの距離を保ったのだと勝手に解釈した。
「なあ、木下。……これから話さない?」
……話す?何を。
岩島と話すことなんて一つも、ない。
むしろ、話したくもない。
「……あ、アンタと話すことなんてない」
もう、ここから早く去りたいっ。
なんで、アンタがここにいるの?!
……忘れようとしてたのにっ。
冷たく言い捨てたのに、岩島は少し歩みだし近寄ってきた。
あたしは一歩後ろへ下がったけど、その歩幅は数mmしか下がってなくて。
2人の間は30cmあるかないかの距離になってしまった。