引っ越し先はあたしの隣⁉︎
──ガラッ。
不意に開いたドア。
小さな声が聞こえた。その人は驚いたような戸惑っているような声をしていた。
それもそのはず。
だって、ドアの横の壁に立っているから。
教室からは死角になる所にあたしはずっとそこで立ち聞きしていたんだから。
そこにアイツがやって来た。
顔は上げないでただ下を向いていると、二人の足が階段へと去って行くのをみた。
今の時点でここにいるのは、岩島とあたしだけになる。
この空間が気まずいとかそんなのは一切湧かなかった。
ただ頭が真っ白になるばかりで。
涙はまだ出てこなかった。
たぶん、泣くのはここじゃないと思ったから。
「……うそつき」
うそつき、嘘つき、ウソツキ!
「何が?」
冷たく低い声で淡々と言った。
サイテー。岩島がこんな奴だとは思わなかった。
あんなに、あんなに……っ。
ダメだよ、ここで泣いちゃ。
あとで、泣けばいいこと。ここで泣いちゃったらダメ。
まして、こんな奴の側で泣くとか自分が許せないから。
ここで、全て終わらせるんだ。
あたしは深く息を吸って、岩島の顔を見た。
今向けられている目はもう、あの頃の優しい目じゃない。
色の無い目。
……つらいなぁ。
それでも、視線を合わせた。
「こんなあたしと仲良く話してくれて、ありがとう。笑ってくれてありがとう。……あたし岩島の笑顔が、凄く好きだった。ううん。全部が。でも、違った。ひとりで勝手に勘違いしてた」
そう、あの笑顔も言葉も。全部。