引っ越し先はあたしの隣⁉︎
木下の過去を聞いて、怒りしか沸かなかった。
……やっぱあの時殴ってりゃよかった。
聞きながら握り拳を作ってたらしく、少し爪痕が残っていた。
「──……それから、舞は自分のコンプレックスで悩んで『恋をしない』って言い続けてたの。ううん。ずっと心に刻んでた……っ」
当時を思い出したのか涙を流す飯島。
その隣で真人が優しく頭を撫でている。
「んー、でもなんでそんな態度とったのかね?」
そう言って真人が首をかしげた。
確かに、そうだ。
中3になっていきなり態度が変わるって……なんかそうさせた原因がある、はず。
「……後から聞いた話だとね、その時引っ越す事が決まったらしいんだ。引っ越すのは中学卒業した後だけど」
と、なると。
引っ越すから、木下に態度を変えて遠ざけようとした……?
「まさか!」
そう声を上げたのは真人。
それに頷いて飯島が続けた。
「岩島は……舞のことが好きだった」
少し声のトーンを落として言う飯島は、俺に気を遣ったのだろう。
逆に申し訳なく感じる。
だから、俺は思ったことを口にした。
「何となくそんな感じしてた。ありがとう、教えてくれて」
木下も忘れようと必死だった。
だから、飯島から聞けてよかった。
辛い顔は見たくないから。守るって決めたし。
「そっか。いーえー。でも、私からもありがとうなんだ。隼田、舞に恋心を取り戻してくれてありがとう。あと、舞に恋してくれてありがとう!」
「お、おう」
……この笑顔はやばいな。
これじゃあ、真人が妬くのも分からなくもない。
ま、俺は木下の笑った顔が一番だから。
ちょっとドキッとしたのは心の隅に置いとこう。
「あーっ、斗真!いま菜摘に見とれてたろ!なに滅多にしない反応してんだよ!」
真人は俺に握り拳を突き上げて向かってくるけど、それを飯島に止められ大人しくなった。
ほんと飯島に弱いんだな。
そんな様子を俺と飯島は吹き出して笑った。