引っ越し先はあたしの隣⁉︎
「ちょっ、えっ……隼田くん!?」
戸惑いながらも声をかける。
徐々に距離を詰めてくる隼田くんは、一向に止める気配はなくて。
あたしは後ろへ下がった。
その選択が間違いだったことに、数歩下がった時に気付いた。
それは、背中に固い何かが当たったから。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
今の状況は壁、あたし、隼田くんで並べられている。
そして、あたしの顔の少し上あたりに隼田くんの手が置かれてる。
そう、今まさに恋愛シチュエーションのランキングTOP10には入っているだろう。
『壁ドン』をされているのです。
……や、この場合は『壁トン』?
「は、はやた、くん?」
ち、近いっ。近いよ。
……逃げられそうにないし。
視線が定まらない!
やばい、心臓がメチャクチャ速い。
これじゃあ、隼田くんに聞こえちゃうよ!
もう聞こえてるんじゃ……っ!?
そう思って顔を少し上げた。
その瞬間、息ができなかった。目も逸らせられない。
だってそこには、あまりにも整いすぎている彼の顔があったから。
キリッと切れ長な目は細く細められていて、透き通った瞳の中には、あたしが映っている。
隼田くんはあたしを見てる。
ちょっと恥ずかしい。ううん、ちょっとどころじゃないかも。
瞳に映っているあたしは可愛くも綺麗でもない。
それでも、隼田くんはあたしを見てくれているんだ。
ふと思った言葉をぐっと心の中に押し込んだ。
……ありがとう。隼田くん。