引っ越し先はあたしの隣⁉︎
「っ……っく……ッ」
「ほらほら泣きやめ」
「ぶ、ブリぃ〜……ッ」
「ブリってなんだよ、ブリって」
映画を観終わって号泣しているそばで、隣の隼田くんは俯いて肩を震わせている。
なんで、笑ってられるのー。
泣くでしょー。
周りの人も鼻をすする音がしてたのに。
この映画はダメなやつだよ。
1位っていう理由が分かった気がする。
まさか主人公が撃たれちゃうなんて思わなかったし!
予告では『勇敢な熱い刑事、愛する人を守れるか──』って。
まさか身代わりになっちゃうなんて。
好きな俳優さんが死んじゃうっていう悲しさもあるんだろうけど。
「ほら、もう行ける?」
そう言って顔を覗いてきた。
うっ。顔近いし……。
まだこの距離には慣れないな、と思いながら縦に首を振った。
手を差し伸べてくるから、あたしはそれに自分の手を重ねた。
「目、真っ赤」
ふわっと笑う隼田くん。
……なんかその表情、イジワルだよ。
まったく、これはからかってるのかな。
恥ずかしくなってそっぽを向く。
「……困るな、その笑顔……」
「え、なに?」
っ。
ボソッと言ったつもりなんだけどな。
いまの聞かれちゃってた……?
聞かれてないことを祈りながら「なんでもない」と嘘ついた。
隼田くんはそのままスルーして前を向いて歩き続ける。
隣にいる彼の横顔を盗み見つつ、ホッと息をついた。
映画館を出るともう辺りは夕焼けに包まれていた。
もう少しで帰るのか……。なんかやだな。
とか思ってしまう。
あたしん家はとくに門限は決まっていない。
決まってないけど、いざ帰るって意識しちゃうと凄く切ない。
おかしいかな?
「木下、最後にアレ乗らない?」
そう言って指をさす。
隼田くんが指さしたのは、大きな観覧車だった。