引っ越し先はあたしの隣⁉︎
「……ごめんね」
「いいよ、怒ってないから」
「そうじゃなくて、名前、呼べなくて」
情けない。名前呼ぶだけなのに。
でも、恥ずかしいんだ。
「いいよ、待ってるから」
俺はもう呼ぶけどなって、そう言って笑ってくれた。
「ありがとう。呼べるようにがんばるっ」
「うん、がんばれ」
顔を合わせて笑い合う。
観覧車が下につくまで、手を握って景色を眺めていた。
一言も喋らなかった。
ただふたりで景色を眺めてるだけ。それがとても居心地がよくて。
こうやって、寄り添って手を繋いでぬくもりを感じ合うこの時間。
とても幸せだなって。
テーマパークを出る頃にはもうすっかり太陽は沈みきっていて、真っ暗になっていた。
月が少し欠けてる。
隼田くんと手を繋ぎながら家へ続く道を歩く。
夜だから昼間とは違った寒さ。
それなのに体はポカポカしてる。
あたしの場合、一年中温かいっていうのもあるけど、それとはまた違う暖かさ。
しゃべると白い息が見えて、それに笑ったり、今日の出来事を振り返って笑いあう。
あたしは恥ずかしすぎることばかり思い出して、それに隼田くんは思い出し笑いをされた。
「舞美はほんとにおもしろいよ」
「わ、笑わないでよ!」
まだ笑う隼田くんに一喝するけど、それでも笑ってる。
もう。だめだこれは。
言っても聞かないようじゃ、らちが明かないよ。
「はい、これ」
アパートの前まで来た時、隼田くんはポケットから何かを取り出して差し出した。
はてなを浮かべながら細長い袋を受け取る。
「開けていいよ」
指を指して言った。
言われた通りにペリっとシールを剥がして中を覗く。
その中にはさらに透明な袋が入っていた。
それをつまんでゆっくり引き上げる。
「こ、れ……」
息をのみこんだ。驚きと嬉しさで。
差し出された袋の中には、ネックレスが入っていたんだ。
シンプルなシルバーのネックレス。
その先端には小さなリボンのチャームが付いる。
シンプルだけどとても可愛い。
「気に入った?」
その言葉に何度も頷く。
見上げると優しく笑っていて、とても愛おしいと思った。
「ありがとうっ」
ありがとう、隼田くん。
とてもうれしい。
涙が出てきそうなくらい。
それをグッと堪えて、笑った。
彼が好きだというあたしの笑顔を。
すると隼田くんもあたしの大好きな笑顔で笑い返してくれた。