引っ越し先はあたしの隣⁉︎
「じゃ、またな」
隼田くんは手を振ってそう言う。
家に入らないから、多分あたしが入るのを待っているんだろう。
そういうさりげない優しさってキュンとくるんだよ、隼田くん。
わかっててやってるのかな?
「うん、……またね」
あたしも手を振り返して、ドアノブに手をかけた。
……もう少し。
まだ、もう少し一緒にいたいっ。
「……っ斗真くん!」
あたしは隼田くんに抱き着いた。
びっくりしたのか息をのむ小さな声が聞こえた。
重い体を優しく包んでくれる。
それが嬉しくて。
「もう少しこうしてても、い?」
言った瞬間、顔が熱くなってくるのがわかった。
でも、恥ずかしさはそれ程感じなかった。
自然と口から出たからかな。
ぎこちなく頷く隼田くん。
少し見上げると顔を上に向けて小さくうなり声をあげていた。
照れてるの?それとも嫌だった?
急だったからね。
もう離れた方がいいかな。
そう思って体を離そうと腕に力を入れた。
「まだ行くなよ」
「えっ」
「舞美がこうしてくるのがいけない」
隼田くんの腕に力が入っていた。
ぎゅっと優しく。そして笑う。
「それに名前、急に呼ぶし」
耳元でそう言って小さく息を吐いた。
……?
名前?急に?
「……呼んでた?」
何言ってんの、とでも言いたそうな目で隼田くんはあたしを見る。
あたし呼んでたの?
隼田くんの名前を?!
いつ!
……覚えてないんだけど。
「呼んだじゃん。抱きついてきた時に」
拗ねたように少し口をとんがらせて言う隼田くん。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「なにニヤニヤしてるんだよ」
「し、してないよ!」
「してたし」
「絶対してない、してないよ!」
ジト目で見てくるから縮こまってしまった。
うぅ。目のやり場に困る。というか、距離が近い。
今更そう思っても遅いんだけど。自分が起こしたことだから。
「じゃ、忘れた罰ね」