引っ越し先はあたしの隣⁉︎
──ガラッ。
誰もいない教室、3年4組に入った。
とても広いなって感じた。
自分の席を見つけてそこに座る。
窓側の一番後ろの席。
なぜかいつもあたしの隣は空席で、いつも不思議に思ってた。
『き』なのに。
『わ』だったら何となく分かる気がするんだけど。
あたしの後ろは壁で。
一体どういう席順なの?!って何度も思って過ごしてたこの3年間。
でも、今となってはこの席はとても大切な場所。
隼田くんという大切な人に巡り合わせてくれた席だから。
それだけじゃない。家だってそう。
まさか転入生が同じクラスで、隣の席で、同じアパートで、隣人だなんて。
隼田くんに出逢えてよかったよ。
「舞美」
落ち着いた声があたしを呼んだ。
前を向くと教卓の前に立ってこっちをみてる隼田くん。
そしてゆっくりとした足取りであたしの隣の席に近づいてそこに座った。
「ね、知ってた?」
「ん?」
はてなを浮かべてみると、ふわっと笑った。
まるで懐かしむような眼差しで。
多分、隼田くんもあたしと同じことを思ってるんだろう。
「俺がここに来た時、一生懸命拝んでたでしょ」
それは彼が転入して席の指示を受けているとき。
み、見られてたんだ……。なんか恥ずかしい。
「あの時、すごい面白い女子がいるなって思った。あまりにも必死だったから」
そう言って思い出し笑いをする。
「んで、引っ越し先が舞美ん家の隣じゃん?」
まじびっくりしたって、笑いながら言う。
あたしだってびっくりしたよ。そりゃ、誰だってびっくりすると思うよ。
「そんでさ、蕎麦渡したじゃん。母さんが。……その時の舞美の表情、可愛いって思ってた」
「っ!」
まさかのカミングアウト。
うそ、だ。
隼田くんが?!あたしをそんな風に思ってたなんて。
「舞美のいろんな表情見る度に、どんどん惹かれてる自分がいて……」
初恋だったから、気付くのにだいぶ時間かかったんだけどって言って照れてる。
もう、ほんとに分かってないよ。隼田くん。
あたし、限界。
こんな風に想ってくれていたなんて。
嬉しすぎるよっ。
「って、なんで泣いてんだよ」
「……っ、泣いてないし」
「あ、嬉し涙ってやつ……?」
にこやかに聞いてくるから素直に縦に首を振った。
「ありがとうっ、こんなあたしを好きになってくれてっ」
涙が止まらない。
一体どんだけ泣いたら気が済むんだろう。
自分が呆れるよ。
「『こんな』って言うな。俺はどんな舞美でも想いは一生変わらないから」
そう言って、ひとつキスを落とす。
「俺は舞美が好きだよ」
「っ、あたしも、好き」
そして、ふたつめのキスを落とした。
オレンジ色が教室に差し込んで、あたし達を照らす。
とても温かかった。