引っ越し先はあたしの隣⁉︎
な、なんでいるの!?
さっき帰ったんじゃ……。
驚いた顔で隼田くんをみていると。
「お前さ、さっきのアレなんなの?」
え、『さっきの』?
さっきのって目を逸らしたこと、だよね?
「え、あー、……ごめんなさい……?」
……なんで謝ったんだろう。
でも、この言葉しか見つからなかった。
だって、目が合ったことに驚いて不覚にもドキドキしちゃったから、なんて隼田くんに言えるわけがない。
たとえ、口が裂けたとしても。
もっと可愛い女の子だったら素直に言えるんだろうな。
「いや、謝って欲しくて聞いたわけじゃないんだけど。なんか木下に目、逸らさられたらなんか傷ついた……!」
え、いまなんて?
『傷ついた』って言った?
なんで?
あたしはハテナを浮かべて隼田くんをみた。
彼は口に手をもってって「……いや」と一言だけ言って、あたしから目を逸らしている。
わ、見すぎちゃった……!
こんな顔で見られたくないよねっ。
あたしも目を逸らし、下を向いた。
少し沈黙が続いて、ふと思い出したように隼田くんが沈黙を破った。
「お前さ、声デカすぎっ」
とくすっと笑いながら言った。
その声に顔を上げる。
「リレーの時さ、お前の声がすごい聞こえた。他の声もあったと思うけど、木下の声だけが一番聞こえた」
──っ。
なんでこんな優しい笑顔で言うの。
どきっとしちゃうじゃんよ。
……しちゃったじゃん。
「ありがとな。1位になれたのは木下のおかげだと思う」
と言いながらぽんぽんと頭を撫でた。
これはヤバイ。
驚きとドキドキが混じって固まってしまった。
……そっか。ちゃんと届いたんだよかった。
俯いたままそう思う。
ぽんぽん、ぽんぽん……。
てか、まだ撫でられてる……。
すんごい恥ずかしいんだけどっ!
「あの、いつまでこうしてんですか!?もう、止めてっ」
恥ずかしさのあまり敬語になって、撫でてた手を払った。
「なに、はずかしかってんの?」
でた、S隼田くん。さっきまで優しかったのに……。
でも、そんな隼田くんにドキドキしちゃって早くここから立ち去りたい衝動に。
でも、なっちゃん待ってるんだけどなー。どうしよ。
頭をフル回転させ、考えた結果。
立ち去りたい感情が勝ち、なっちゃんには申し訳ないけどあたしは帰ることにした。
なっちゃんにメールをしてから、「じゃ」と一言言って隼田くんの横を通った。
「はあ……っ…やっとひとりに、なったよ……っ」
さっきいたところから走って、いまはいつも見ている帰路を息を整えながらゆっくり歩きながらつぶやいた。
もう、なんなの?!
頭撫でるとか……ダメでしょ。
こういうのに慣れてないからどう反応したらいいのか分からないし、とにかく恥ずかしい。
ま、隼田くんのことだからからかってるんだと思うけど。
『木下の声が一番聞こえた』
『1位になれたのは木下のおかげだと思う』
ふふっ。
「あたしのおかげだってさ」
なんか嬉しくなって自然と笑みがこぼれた。