引っ越し先はあたしの隣⁉︎
階段を上がって直ぐ近くがあたしの家、隼田くんは左に曲がって直ぐのところに家がある。
ほんとにお隣さんなんだなー、と改めて思う。
ふー。助かったー。これでもう解放されるよ。
「今度こそ、じゃーね!」
そう言ってドアノブに手をかけた。
「リレー、ありがとな。ほんとに」
背後から聞こえた声に反応して振り向いた。
「あの時もうダメかもって思った。なんか期待されちゃってるし、だからここは1位になんないといけないんだろうなって思ってたからさ」
隼田くん……。
「そしたらさ、『いけーーーー!』って大きな声が聞こえてさ。すぐ木下だって分かった」
あたしを優しい瞳でみて、笑った。
「だから最後の一直線頑張って諦めないで走れた。ほんとありがとう」
また優しく笑う。
あたしはその表情にいちいちドキドキしてて。
「あ、あたしは何もしてないよ。普通に応援してただけだし」
なんで、こんなドキドキしちゃうんだろう。
なんかやだ。
するとゆっくり近づいてきて
「……俺も、応援してた。お前のこと」
……え。
発した言葉に驚いて隼田くんをみた。
その表情は笑ってるけど真剣な瞳をしていた。
その瞳からあたしは目が離せなくなっていた。
隼田くんの瞳には太った自分が映ってる。相変わらず、惨めで残念な姿だ。
なんで隼田くんは近寄ってくるの?
すると、隼田くんの手があたしの頭に触れようとした。
けど、あたしはそれを避けた。
──バタンッ。
ドキドキドキドキ……ドキドキ…………。
「あら、おかえりなさーい!」
リビングの奥の方からお母さんの声が聞こえてくる。
けど、それに応えることなくそのまま自分の部屋に入っていった。
なんで、なんで。
なんでこんなドキドキしちゃうの。
あのまま居たら、と考えるともう心臓が持たない。
だからあの手を避けて、逃げた。
『俺も、応援してた』なんて言わないでよ。
どうしよう。
この感情を持っちゃいけないのに。
ずっと封印していくって決めたのにっ。
キミに送ったエールの本当の気持ち。
いま気付いてしまった。
あたしは似合わない涙を久しぶりに流した。