“毒”から始まる恋もある


「ねぇ、これサラダだけって頼めないのかしら」

「すみません、ランチのセットメニューだけなんですよ」


ウェイトレスの返事に歯噛みする。食欲はない。でも確かめずには居られなかった。


「じゃあランチセット。ドリンクは珈琲で」


心臓がドキドキして、呼吸が苦しい。
サダくんはここもよく来ていたようだった。

もし昼にも来ていたとしたら?
彼の行きつけの店の料理が、すべて【居酒屋王国】にもあるとしたら?

疑念が消せない。むしろどんどん強くなっていく。


「お待たせいたしました。本日のランチセットです」

「ありがとう」

ウェイトレスが差し出してくれたランチプレートに胸焼けを感じつつ、恐る恐るフォークを手にとった。


見た目はほぼ一緒。
【居酒屋王国】での味付けは和風ドレッシングだったけどこっちは?

口に入れるとうっすらとゆずの風味が広がった。
和風だけど、塩ベースのドレッシングでさっぱり感がある。おいしい、と素直に思えた。

【居酒屋王国】と、味は違う。でも、どちらが上かといったらこっち。
それは、【U TA GE】の玉ねぎのワイン煮込みにも言えることだ。
まるであっちが、微妙に味を変えた劣化版みたいな……。


「お待たせしました。あれ、お昼まだだったんですか?」


そこに聞こえてきたのは、数家くんの声だ。

喉が詰まって、返事ができくなった。
別にめちゃくちゃ食べ物をほおばってるわけでもないのに、顔が上げられずに、ただ手元の皿を見つめる。

直ぐにウェイトレスがやってきて彼から注文をとる。
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