“毒”から始まる恋もある
「あ、俺は珈琲で。向かい、失礼しますね。待たせてすみません」
大して待ってないわよ、あなた早かったじゃない。
声に出したいのに、声にならない。
どうしよう、どうしよう。なんて言ったらいいの。
「刈谷さん?」
数家くんの声が、怪訝な響きを帯び始めて、私は仕方なく顔をあげる。
「……どうしちゃったんですか」
あっけにとられたような彼の顔。
私は、どんな顔で映っているんだろう。
「この料理」
「はい。美味しそうですね」
「同じのがでたの」
「どこに」
「サラダが、居酒屋王国で」
数家くんが息を飲んで、考えこむように腕を組んだ。
「……ここのランチセットは結構有名なんです。栄養バランスがよく、こってりしたパスタと、あっさりしたサラダのバランスが良くて。グルメを自称する方なら、おそらく知らないことはない店だと思います」
「じゃあ、偶然?」
「そうでないとは言い切れません。とにかく、刈谷さんが俺に話そうとしていたことを教えてくれませんか?」
「うん」
そうだ。
とにかく吐き出してしまわないと、頭が一杯でおかしくなりそう。
息を吐いてフォークを置くと、数家くんは「食べないんですか?」と問いかける。
「あんまり食欲無いのよ。サラダを確認したくて頼んだだけ」
「じゃあ、俺もらってもいいですか? 賄い食べてる暇なかったんです」
「いいわよ」
手のついていないパスタを渡す。
彼は静かにフォークとスプーンを操りながら、視線で私に話すように指示した。