“毒”から始まる恋もある
「……疑いでしか無いのよ」
そう前置きをして、私は彼に連れて行ってもらった【居酒屋王国】の様子と、彼の部屋で見た飲食店のデータとそれを彼が『仕事の資料』と言ったこと、そして最後に、自分の書き込みへ付けられた赤いバッテンの話をした。
「ただのグルメで、お店のデータを集めているにしては、なんかものすごく細かったし、ただ見られたくなかったのかも知れないけど、それを『仕事の資料』っていうところも解せないし」
「そうですね。確かにちょっと怪しいなぁ」
「否定意見に対してあんなにバツがついていたのもなんだか怖くて」
思い出すと身震いがして、両手で自分を抱きしめるようにした。
数家くんはみるみるうちにパスタを平らげて、口元をナプキンで拭く。
「その書き込みが刈谷さんのものだとは知られてないですか?」
「多分」
「教えないほうがいいと思います」
それは私もそう思う。
珈琲を一口飲んで、はあとため息を付き、正面の彼を見つめる。
「……私、彼のこと疑ってる。彼氏なのに」
せっかく出来た彼氏なのに。
本当なら、誰が彼を疑っても私は信じなきゃいけないはずなのに。
「俺も最初からあまり信用してませんよ。褒めるだけの人って言うのはその場を上手く凌ぎたいか何も考えていないかの場合が多いので」
数家くんから意外にも辛辣な言葉が出てきて、私は目を見張った。
ただ単純に善良な人だと思っていたけど、そうでもないのかしら。