“毒”から始まる恋もある
「朝から不安で……、だって確証があるわけでもないし。こんなこと言ってもいいのかって迷ってたから、……だから」
数家くんが腰を浮かしたと思ったら、視界に影が差した。
どうやらテーブルを回って私を隠すように立ってくれたらしい。
「……ビビりました」
「ごめん」
「いや。いいんですけど」
しかし彼は突っ立ったまま動かない。
泣き顔を隠そうとしてくれるのは嬉しいんだけど、あなたが立ってると余計目立つ気がするわ?
俯いて鼻をすすっていると、数家くんの手が私の頭にそっと触れる。
「でます? それともここで大丈夫です?」
優しい声だ。
もっとゆっくり聞いていたいくらいの。
私は思わず彼のシャツの裾を引っ張った。
「いいから、立ってると目立つ。ちょっとここ座りなさいよ」
「はあ」
すとん、と隣の席に収まる大きな体。
隠すならこの方が目立たないでしょうよ、なんて思いながら、困る数家くんを尻目に涙のにじむ瞳を抑えた。