“毒”から始まる恋もある
11.好きなのは、誰
その夜、サダくんは電話をくれた。
お決まりとなった『ごめんなぁ』から始まる会話。続くのは当り障りのない、世間話。
自分でも驚くほど気分が上がらなかった。
「ねぇ、今日の仕事って何してたの? 運送の営業でしょ?」
『あーうん。契約取り付けに行ったりとか色々な。いろんな業種があるから土日もあったりなかったりや。なんや、史ちゃん、寂しかった?』
「……うん、まあね」
でもそんなに土日も仕事が入るだろうか。
運送業者をよく使うネットショップとかだって土日は受付していないところのほうが多いし、まして営業活動なら別に平日でもいいはずだ。
今は勤務時間外の労働には結構うるさいし、ウチの営業部の休日出勤届けは以前よりむしろ減っているくらいだけど。
「ホントに仕事?」
『何や疑っとる?』
彼の声色で、不機嫌になったのが伝わってくる。
ヤバイ、しつこすぎたか。
私は焦って言い訳をする。
「そういうわけじゃないわ。ただ気になっただけよ」
『だよな。史ちゃんはそんな面倒な女じゃないよな?』
面倒な女ってなんだ。
彼氏の多忙にヤキモチ焼くのは、普通のことだと私は思うけど。
『したら、また金曜デートしよな。今度何食いたい?』
「そうね。なんでもいいけど」
『史ちゃんの友達とか、いつもどんな店行くん? 俺も新規開拓したいし、今度は史ちゃんにエスコートしてもらおかな』
「……そうね。考えとく」
普通に電話を切ったけれど、どうにも気が乗らない。