“毒”から始まる恋もある
*
それから数日後の水曜日。
オフィスは相変わらず、電話とキーボードの音が主流だ。部長が舞波くんと話す声が心地よい子守唄のようにも聞こえる。
書類を届けに社内を回っていた菫が、戻ってくるなり私に耳打ちした。
「刈谷先輩、少しお時間あります?」
「なによ。なんかあった?」
「あの、……司さんがちょっと話があるって」
「里中くんが?」
なぜ。
しかも菫を通してってことは仕事の話じゃないのよね?
「都合のいい時に営業部に来て欲しいって言ってました」
「あらそう」
定時帰りに向けて、仕事はちょうど片付けたところだ。
じゃあちょっと行ってみるか。
「菫も行く?」
「いえ。私はこれから打ち合わせあるんです」
「あらそう」
気を利かせたつもりだったのに。
ポーチだけを持ってエレベータに乗る。
その間に定時を過ぎたらしく、降りたところでは営業事務の彩音がいた。
「刈谷ちゃん、おつかれぇ」
「おつかれ、彩音。もう帰るの?」
「極力残業はしない主義だもーん」
明るい声で去っていく彩音。
正しいと思う。会社だって無駄な残業代を払いたくは無いだろう。就業中に終わるものなら終わらせたほうが双方のためなはずだ。
それから数日後の水曜日。
オフィスは相変わらず、電話とキーボードの音が主流だ。部長が舞波くんと話す声が心地よい子守唄のようにも聞こえる。
書類を届けに社内を回っていた菫が、戻ってくるなり私に耳打ちした。
「刈谷先輩、少しお時間あります?」
「なによ。なんかあった?」
「あの、……司さんがちょっと話があるって」
「里中くんが?」
なぜ。
しかも菫を通してってことは仕事の話じゃないのよね?
「都合のいい時に営業部に来て欲しいって言ってました」
「あらそう」
定時帰りに向けて、仕事はちょうど片付けたところだ。
じゃあちょっと行ってみるか。
「菫も行く?」
「いえ。私はこれから打ち合わせあるんです」
「あらそう」
気を利かせたつもりだったのに。
ポーチだけを持ってエレベータに乗る。
その間に定時を過ぎたらしく、降りたところでは営業事務の彩音がいた。
「刈谷ちゃん、おつかれぇ」
「おつかれ、彩音。もう帰るの?」
「極力残業はしない主義だもーん」
明るい声で去っていく彩音。
正しいと思う。会社だって無駄な残業代を払いたくは無いだろう。就業中に終わるものなら終わらせたほうが双方のためなはずだ。