“毒”から始まる恋もある
「今菫を呼んでくる。ちょっと落ち着くまで座ってなよ」
私をパイプ椅子に座らせて、里中くんは部屋を出ようとした。
と、途端に「うわっ」と大きな声。里中くんらしからぬ驚いた声に、私も思わず扉の方を向く。
すると、そこには谷崎が立っていた。
「た……谷崎?」
「すいません、俺、刈谷が里中さんに連れて行かれるの見て」
「覗き見してたのか?」
「……すいません」
谷崎は叱られた子供のように頭を下げ、しかしその後「でも」と言いながら顔を上げた後は毅然としていた。
「全部聞いた。刈谷、そんなやつとは別れろよ。お前騙されてんじゃん」
「うるさいわね、谷崎。関係ないでしょ」
いきなり割って入ってこないでよ。うざい。
私だって混乱しているのに、これ以上脳内ごちゃごちゃにしないでよ。
「関係なくない」
いきなり近づいてきたかと思うとギュッと右腕を掴まれる。
谷崎の真剣な顔が近くに見えてなぜだかギクリとした。
「おい、谷崎」
「里中さんは黙っててくださいよ。刈谷を振った癖に!」
アンタなんてこと言うのよ。仮にも職場で。
そう思って見つめるも、里中くんは平然としている。
「里中さんは知らないんでしょ? こいつがどんだけ泣いてたか。この酒豪がフラフラになるまで酔っ払って、他の男目の前にして、好きだったのにって泣きまくる姿なんか見たことないでしょ?」
「止めてよ、谷崎」
いつの話してんのよ。もう……半年も前のことなのに。
やっと、振られたことなんて関係なく、普通に話せるようになったのに余計なこと言うな。