“毒”から始まる恋もある
「……谷崎は見たのか?」
興奮する谷崎に対して、冷静さを崩さずに里中くんが告げる。
「見ましたよ! だからっ、俺はその時からっ」
いつものレイバンの眼鏡を直す仕草。そのまま、彼の手は顔から離れない。
私は目を見張った。
その手の隙間から見える谷崎の顔が、真っ赤だったから。
そのまま、谷崎の勢いが急速にトーンダウンする。
……ここで黙らないでよ、気まずいでしょ。
「……そういうことか。俺、邪魔かな。ちょっと出てるよ」
くすりと笑って、里中くんが扉を締める。
「ちょっと里中くん」
声をかけても、優しく笑うだけで止まってはくれなかった。
ここで谷崎と二人にされても困るんだけど。
谷崎は真っ赤な顔を隠すのを諦めたのか、私の両肩を掴み直した。
なんとなく目まで充血してるから、アンタ。
「刈谷」
「な、なによ」
お願い、止めてよ。そんな真剣な顔で見ないで。
「だから俺は、本気なんだ」
「何がよ」
「酔っ払って大泣きしたお前を見た時から、好きなんだよ、刈谷のことが」
眼鏡の奥の熱っぽい瞳が私を捉える。
いつも茶化したふうに笑う谷崎の、情熱的な瞳。
あの日アンタは酔っ払って、ただ欲求を満たしたいだけで私を抱いたんじゃなかったの?
「……半分意識ない私にあんなことしておいてよく言うわね」
「あの日は、……してねぇんだって。ベッドに連れ込んで裸にまでしたけど、……俺、出来なかったんだよ」
「……え?」
「あんな風に泣かれたら、出来ねぇって。他の男の名前呼び続ける女を抱ける男なんていねぇっつーの」
じゃあ、あの日谷崎とは何でもなかったの?