“毒”から始まる恋もある

「だってアンタ、しちゃったって私に」

「……一回でも関係持ったって言えば、刈谷が俺に興味持つかと思ったんだ。……まあ、逆効果だったみたいだけど」


また眼鏡を直す。
嫌味ったらしいと思っていたこの仕草は、もしかして照れ隠しだったの?


「今度はちゃんと言う。お前を騙すような男、辞めろよ。俺を見ろ。俺はちゃんと、刈谷のこと見てるから」


無意識に、胸元を手で抑えた。

まるで世界が反転したみたい。

見えていたものの、隠れていた意味を知る。それだけで世界は、変わって見えてくる。


好きだと思っていたサダくんは、私を騙していた。
体目当てだと思っていた谷崎は私に本気だって言う。


もう混乱して訳がわからないよ。

目の前の、真っ赤な顔をした谷崎をみていると心拍数が上がってくる。

ドキドキするし、嬉しい。
こんな風に熱く告白されるとか初めてで。

……だけど、それだけだ。

嬉しいのは告白された事実に対してであって、それが谷崎だからというわけじゃない。

サダくんとの時も嬉しかった。
軽い告白だったけど、それ以上に私が好きだと思っていたから。
でも今思い返すと、ときめかない。

彼に騙されていたのかっていう不信が、思い出からまでもときめきを奪っていった。

今の私は、サダくんが好きかどうか、分からない。
だけどじゃあ、告白してくれた谷崎と付き合うのがいいかと聞かれたら、それはなんだか違う気がする。

ああもう、どうしたらいいのか分からない。
混乱した頭を何とかしたい。誰か助けてよ。


そう願った時、頭に浮かんだ顔があった。


なんで彼がと思いつつ、思い出したら胸がギュッと詰まる。

なんなのこの感じ。
まるで、酸っぱいシャーベットがいつまでも口に残った、あの時みたいな。



< 116 / 177 >

この作品をシェア

pagetop