“毒”から始まる恋もある
とりあえず用意していた話題を振ってごまかそう。
「あなたこそ、行ったの? 【居酒屋王国】」
「行きましたよ、昨日。それが気になってこられたんですか? 後でお電話するつもりだったんですけど、……徳田さんはいませんでした。正直黒とも白とも言えませんね。味はだいぶ違うので同じものという認識は出来ないでしょう」
「そう」
「でも、店長に徳田さんをモニターから外したいとだけは伝えました」
「え?」
「そろそろ一年ほど経ちますし、正直、実のあるなぁと思えるご意見をいただいたことがないので」
「店長さんはなんて?」
「俺がそう言うならそれでいいと」
店長さんはちゃんと見たことがないけど、厨房にいつもいるのかしら。
経営者の癖に表に出てこないのは気になるけど、数家くんとの間に信頼関係はあるのかな。
「まあ具体的な被害があるわけでもないし、……うちの店の方は問題無いです。それより、他には何がありました?」
「え?」
「この間みたいな困った顔してますし、一人で食事来たってわけではないんでしょう?」
ああ、見透かされている。
そう思った途端に一気に気が楽になる。
私の言葉を聞いてくれる。不安も、疑問もとりあえずは受け止めてくれる。
この信頼感だ。
だから私は、困ったときに彼に会いたいって思うんだ。
「……私、嘘つかれていたのかもしれない」
「徳田さんにですか?」
数家くんは私におしぼりを差し出す。
濡れたおしぼりで目元を抑えると冷たくて気持ちが良かった。
「徳田さんの勤め先、数家くんはなんて聞いてた?」