“毒”から始まる恋もある
2.お願いがあるんですが
「あ……、親睦会の話ですか?」
隣の机で戸惑った声をあげるのは、昨年の秋に私の愛しい里中くんの彼女という立場をゲットした塚本菫(つかもと すみれ)。
地味なグレーのスーツに身を包んでいるけど、インナーの藤色に救われて、清楚な事務員風の印象になっている。
昔は真っ黒のストレートヘアで野暮ったかったのに、今は明るめのブラウンに染め、定期的なパーマを欠かさない。
ゆるふわ系のスタイルは、ちょっとドン臭い菫の印象そのままで、違和感なく彼女に馴染んでいると思う。
なんていうか、これがすべて里中くんのお陰で変身したってとこが凄いよなぁ。
私は、努力しない女や卑屈になってる女が嫌いだ。
だから今の菫ならそれほどイヤじゃない。
そんな風に女の子を変えられる里中くんは、やっぱりいい男だったよなぁ。
背も高くて肩幅もしっかりあって顔も良くて卒なくスマートで。
完璧だったのに、どうして菫なんかに。
おっと、いかんいかん。
ついつい本音が出ちゃったわ。
「そうですね。私あまりお店知らないので……」
菫が困ったように部長に答えている。
「なんの親睦会なんですか」
余計なことかと思いつつ、口をはさむと二人が一斉に私を見た。
「ああ、刈谷くんのほうが詳しいかな」
「支店の採用担当者を集めて、4月に入ってくる新人さんの教育体制等についてのすり合わせをするんです。で、終わった後軽く親睦会でもどうって話になって」
「そういうのなら強い男がいるでしょ。舞波くんは?」
「舞波さん、来週まで出張なんです。メールで相談したら店だけ決めておいてって言われちゃって」
「ああ」
そういえば出張だったか。
道理で社内が静かだと思った。