“毒”から始まる恋もある
「何やってるんですか」
そこに、数家くんが割って入る。
「光流」
なんだ、光流って数家くんの名前なのか。
彼と会話するために振り向いたその顔は、雑誌で見た店長さんと一緒だった。
ってことはあれが店長さんで間違いないんだな?
「失礼します。ここで騒ぐのはやめましょう。お客様の迷惑になります。店長、裏口から徳田さんと外に出てください。上田は割れた皿を片付けて。仲道さん、今日多めに枝豆ゆでてあるでしょう。お詫び用にセットして下さい。房野は補助で小皿出して」
よどみなく厨房に指示を出し、出来上がった皿を数枚お盆に乗せると、今度は客席に出る。
「お客様、お騒がせして申し訳ありません。こちら、サービスになります。ごゆっくりおくつろぎください」
彼の動きに、つぐみちゃんと皿を片付け終えた男の子の店員が従う。何事かと不審な顔をしていたお客たちは、目の前のサービス品に目を移し、やがて歓談の輪に戻っていく。
「お見事」
私は隠れるのも忘れて小さく手をたたくと、数家くんは我に返ったように慌て始めた。
「何見てるんですか。すいません、この後店長と徳田さんを事務所に連れてきますので、刈谷さんは出ていてもらえますか」
まあ私は多分部外者なのだから、追い出されるのは当然といえば当然だけど。
ここまで来て詳細がわからないのも凄くむず痒いというか。
「嫌よ。相手が徳田さんなら私も関係ない話でもないでしょう?」
「でも」
「静かにしているからここに居させて」