“毒”から始まる恋もある
数家くんは嫌そうな顔をしていたけど、私がテコでも動かなさそうだと思ったのだろう。
諦めたように、厨房の裏口から店長さんとサダくんを呼びつけた。
「……史ちゃん? なんで?」
途中でサダくんに見つかり、それは驚いたような声を出された。
「サダくん、あの」
言い訳をする前に、小さな舌打ちが聞こえる。
次の瞬間、サダくんの視線からはいつもの親しみやすさが消えていた。
恐怖を感じるくらいの冷淡な目つきで私を睨む。
「……そういうこと? 数家になんか吹き込んだんは史ちゃんか。俺が好きって言うとったの嘘やったんか」
「違うわ。でも」
「何が違うねん」
ヤバイ。別の修羅場が始まってしまう。
やっぱり残っていたらダメだったかと唇を噛んだ時、数家くんの厳しい声がした。
「二人共早く事務所に入ってください。お客様に聞こえるところで騒がない。それくらい分かるでしょう」
一番年下に叱られたわ。
でも確かに、彼が正しいといえば正しい。
「ホント生意気やな、あいつは」
サダくんも舌打ちはしたものの、彼の言葉に従った。
事務所に入ると、既に店長さんが事務机により掛かるようにして立っている。
私とサダくんはそれぞれソファの対面を指示されそこに座った。
最後に数家くんが扉を閉めると、重い空気がますます重くなる。