“毒”から始まる恋もある
まず店長さんが私を見て数家くんに問いかける。
「光流、こちらは?」
「モニターをお願いしている刈谷さんです。前に話したでしょう? 今たまたま来られて、体調不良で事務所で休んでもらっていたところですよ」
「じゃあ、帰ってもらったほうがよくないかい?」
「でも、彼女も無関係ではありません。現在、徳田さんとお付き合いをなさっている方ですし」
ボソリというと、店長の視線はサダくんの方に移った。
「へぇ、偶然ですか?」
「ああ、まあ。……なんや、モニターの席で一緒になって。気があったんや。なあ」
「え、ええ」
「ふうん。まあいいけど。彼女だというなら余計聞かせないほうがいいと思いますよ、徳田さん?」
店長さんの声は穏やかなのに凄みがある。
私が言われているわけでもないのに鳥肌が出ちゃう。
「いや。ええよ。それにしてもなんで史ちゃんがここにおるねん」
「それは、……その」
「相談しにいらしたんですよ。同僚の方から、あなたの職場について変な話を聞いたそうです。それで、うちの店ではどう聞いているか確認しに来られたんです」
数家くんがつらつらと説明する。
サダくんの方は「あー」と呟くとバツが悪そうな顔をして頭をかいた。
どうやら間違いなさそうだ。
「……どうして嘘ついたの?」
「史ちゃん、なんて聞いたん」
「東峰ロジスティックの徳田っていう営業はもう三年前に辞めてるって」
「……おうとるよ。三年前やめて、友人の田野倉ってやつと起業したんや。田野倉はもともと料理人で、ずっと独立したい言うとってな。でも、営業ノウハウがないからって俺ずっと相談されとったんねん。三年前か。田野倉が大当たりでは無いけど宝くじあてて。それを元手に【居酒屋王国】を始めた。俺達で一から作った店やねん。田野倉が社長で表に立って、俺は出店依頼とか企画とかの総括をしとって。……でも誤魔化したのには理由があんねん」