“毒”から始まる恋もある
「それは僕の方から説明しようか」
店長さんの声はなんというか人を圧する。誰もが自然に彼の方を向いた。
彼は全員の視線を受け止めて満足そうに頷いた。
「こちらの徳田さんと僕が出会ったのは昨年だ。焼き鳥屋だったかな、カウンターで飲んでる時に隣の席になって、話が弾んでね。僕が店を営んでいると知って食べに来てくれると言った。そして内密に【居酒屋王国】に出店交渉されたんだ」
「は? 聞いてませんよ、そんな話」
ここで割って入ってきたのが数家くんだ。
店長さんは食って掛かってくる数家くんを見て何故かニコニコする。
「あの頃、光流忙しそうにしてたからねぇ。あはは」
「あははって」
「実際頭がそっちで一杯だったろう?」
数家くんは顔を真っ赤して黙り込んだ。
なんか、言ってることが意味深なんだけど。
見たことないような顔を見てしまって、得したような残念なような。
「二号店を出すことは前々から考えていたんだ。でも、屋台出店となると話は別だ。すべてをウチの店で管理できるわけじゃないからね。接客を任せることになるのなら、光流レベルの接客姿勢が欲しい。だから彼に言ったんだ。『まずはモニターとしてこの店の姿勢を学んで欲しい。それで光流に君が認められたなら、出店することにする』、とね」
「……すっごい上からですね」
数家くんの呆れたような声。しかもため息つき。
「僕は自分が納得出来ないものは出すつもりないよ?」
「それは知ってますけど。よその営業捕まえてモニターになれとか、よくそんなことを言えますね」
数家くんがどれだけ批難めいた口調で言っても、店長さんは全く堪えていなさそうだ。
いや、むしろ喜んでる?
普段からこの関係性なのかしら。聞いているとおかしいんだけど。