“毒”から始まる恋もある
そこでサダくんが会話を受け取った。
「まあそういうわけやねん。正直腹たったけどな。だったらこっちから願い下げだとも思ったけど、調べれば確かにこの店は接客の評判がいいねん。勉強がてら通うのもいいかと思うた。職業を詐称していたのは、モニターをするためや。店長さんが同業者だと知られないようにやって欲しいっていったもんやから。史ちゃんにまで嘘ついたんは、出会ったのがこの店だったからや。バレても困るしなあ」
なんだ。
じゃあ、悪意があって職業詐称していたわけじゃないんだ。
「じゃあ、メニューをパクったのはどうしてなの?」
私が聞くと、サダくんが苦笑する。
「パクったとは失礼やな。味、違うたやろ? 素材を参考にはさせてもらっとるけど、あれはウチの料理人にちゃんと考えさせてん」
「そ、そうなんだ」
「でも味的に一歩及ばんのは自分でも感じとる。だからこの店が欲しい。ぜひ出店してほしいと思うとる。そのためにモニターだってずっと続けてたんや。……なのに今日、急に店長から『出店の話は無しで』って言われてしもうて、カッとなって飛んできたんや」
「あ」
それで、厨房で揉めてたんだ。
なるほど納得。
じゃあ、なんで急にそんな話に、と今度は店長を皆で見つめる。
サダくんの正体を知らされていなかった数家くんも、そこは気になるらしく店長に目で促した。
「別に急な訳ではないよ。僕は最初から『光流が徳田くんを認めたら』と言っていたはずだ。残念ながら、今日光流は君をモニターから外したいと言ってきたからね。じゃあと思って連絡させて貰っただけだよ」
「え? 俺?」
矛先は一気に数家くんに向かう。
徳田さんは彼を睨み、店長さんはニコニコと笑って見つめる。