“毒”から始まる恋もある
「僕はね、色々こだわりが強いんだ。でも全てに置いてそれを貫くには時間が足りない。だから人を選んでいるんだよ。僕は、光流なら僕の理想の接客をしてくれると信頼している。だからこそ、接客周りに関しては一任している。その光流が君がダメだというなら俺もダメだと思う」
「くっ」
サダくんの拳が、自らの腿を打つ。
「……なんでや。何が気に入らんかったん、数家」
挑むような視線を受け止め、数家くんは困った顔をしたかと思うと、一つため息をついて落ち着いた声音で返す。
「理由は色々ありますけど。……一番はあなたが刈谷さんを不安にさせてるからですよ」
「は? 今関係ないやろ、史ちゃんは」
「一番身近な人への対応さえちゃんと出来ない人が、お客様の要望を叶えられるわけありません。少なくとも、付き合っているのなら刈谷さんにはちゃんと仕事のこと訂正すればよかったじゃないですか」
「それは……」
サダくんの目に迷いが生じる。一度こっちを見て、逸らされた。
気まずさはあるのだろう。
わかってる。彼が私に告白したのは、私がすぐに釣れそうな女だったからだ。
「……その話は後でしましょ」
「史ちゃん」
「私もあなたは言わなきゃいけないことがあるの」
お互い様だ。
私だって、手っ取り早く理想に近くて付き合ってくれそうな彼を求めてた。
恋愛で手を抜いたって何のいいこともないのに、ただ早く安心したくて彼を求めた。
サダくんは居住まいを正し、もう一度店長に向き直った。
「店長、……いや、片倉さん。【居酒屋王国】への出店は本当にダメなんかな」
それはとても必死な形相だった。
見ているこちらの背筋がピンと伸びるくらいに。