“毒”から始まる恋もある
既にカメリアは飲み屋の様相になっている。
奥のほうで賑やかに騒ぐグループ、カウンターでゆっくりグラスを傾けるおじ様たち。
揉めそうな私達は、少し離れたテーブル席に収まった。
「珈琲二つな」
注文を聞きに来た店員さんは、この時間帯では珍しい注文に、一瞬間を空けて「はい」と答えた。
「お酒じゃなくていいの?」
「飲みたい気分でも無いやろ。史ちゃん飯は?」
「食べてない。……でもいいわ、食欲ないの」
「俺もや」
「じゃ、これだけでええか」
サダくんがメニューを閉じると、店員さんが受け取っていった。
「……さて、何から話そか」
ため息とともに、サダくんが私に視線を向ける。
私はそれを受け止めて、自分から話始めた。
「お仕事のことは分かった」
「うん。一つだけ言うておくと、仕事のこと、いつかは自分から話す気やったんやで。ただタイミングがな……」
「【居酒屋王国】に連れて行ってくれた時なら言えたんじゃない?」
「ああ。あん時は……そうやな。あん時に言えば良かったんか」
「でも言わなかった。……サダくん、私の事信用してなかったのよね?」
「まだ付き合い始めたばっかりやしなぁ」
私もだ。
直ぐ疑うくらいには信用していなかった。
「……私も、一つ言ってなかった事があるの」
サダくんは興味を引かれたように片眉を上げる。黙っていれば済む話だとは思うけど、黙っていられない。
「サダくんの家に泊まった時、机の書類を落としたのは本当に偶然だったんだけど、中は見たの」
「ああ。その頃からなんか態度変やったもんな」
「いろんなお店のデータがあって、驚いた。しかも細かく良し悪しが書かれていて、ただのグルメがここまでする? って思った。そして、……その中でも、一番驚いたのは、【E-MESHI】の書き込みに付けられた赤字を見た時」