“毒”から始まる恋もある

始まりも急だったけど、終わりもあっけない。
別れることには私も依存は無いけど、本当にこの終わりでいいのかな。

私のお腹の中に“毒”はまだある。
サダくんに向けたものじゃない、自分への毒だ。

私だって、利用していた部分はあったこと、伝えないのはフェアじゃないんじゃないの?


「……待って」

「なんや、まだなんか?」


支払いを済ませた彼は、止まること無く歩き続けるから、私もそのまま後を追う。


「私も、ごめんなさい」

「なんで謝る?」

「見せつけたいと思ってたの。……里中くん、……あなたに会わせた同僚の。私はずっと彼に振られ続けてて」


サダくんの足が止まった。
振り向いて、少しだけ優しい顔で私を見つめる。


「……そりゃ史ちゃん、理想高いわ」

「なによ」

「完璧星人みたいな顔しとったやん、あの男」

「だから、格好いい人と付き合って、見せつけてやりたかった。サダくんなら、彼に会わせたって見劣りしないって思って……」

「へぇ」


くしゃりと笑った彼は、私の頭をグシャグシャと撫でた。


「……そりゃどうも」

「だから、サダくんだけが悪いわけじゃないわ。ごめんなさい」


言い切ったら体の力が抜けて来る感覚がある。

結局お互い様なんだ。
付き合ってる以上、別れるときにはどちらにも責任がある。


「……いつか、数家と来たらええよ。【居酒屋王国】」

「え?」

「今度こそ史ちゃんが褒めるような店にしておく」

「う、うん!」


サダくんは満足そうに笑って、そのまま私に背中を見せた。
あの肩やあの胸が、一瞬でも自分のモノだったなんて嘘みたいによそよそしくみえる。

サダくんが見えなくなるまで見送ってから、私も歩き出した。
今日は色々なことがありすぎて疲れた。
家に帰って寝よう。そして、少しばかり泣いてみよう。

サダくんとの恋は、本物の恋じゃなかったかもしれないけど、全くの偽物でもなかっただろうと思うから。


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