“毒”から始まる恋もある


 家に帰り、シャワーを浴びながら泣いてスッキリして、よし、寝ようというタイミングで電話が鳴った。


「……数家くん?」


スマホの画面が示す名前に思わず眉をひそめる。
だって、今もう夜の十一時過ぎてるんだけど。


「はい、刈谷です」

『夜分にすみません、あの、……【U TA GE】の数家ですけど』

「こんばんは。今日はお騒がしてごめんなさいね」

『いえ。……すいません、こんな時間に。……でも』


なんだ? 珍しく歯切れ悪いじゃない。

しどろもどろに聞き取れないような声で何かを言っているなと思ったら、一呼吸空いて、ちゃんと聞こえる声がした。


『……大丈夫ですか?』

「心配?」

『そうですね。心配してます』


思わず笑みがこぼれ出た。
言葉ひとつで、こんなに素直な気持ちになるんだなぁ。


「無事に別れたから大丈夫よ」

『それ、無事っていうんですか』

「修羅場にならなかったんだから無事でいいんじゃない?」


変な会話になっていくことが可笑しくて笑っていると、しびれを切らしたような彼の声がする。


『……顔見せてくださいよ』

「え?」

『今から会えませんか』


……って。
私、もう寝るつもりでメイクも落としたし、明日仕事だし、今からどこかに出て行くなんて面倒だけど。


『住所教えてくださるなら近くまで行きます。あなたは声だけだとポーカーフェイスで分からない』

「なにがよ」

『傷ついているなら、放っておきたくないんです』


心臓が大きく揺れた。
大地震なみの衝撃だわ。

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