“毒”から始まる恋もある
言葉遊びをする余裕もなく、私は呆然と自分の住所を告げた。
『直ぐ行きます』
切れた電話を、いつまでも耳元から離せない。
彼が来るならもう一度化粧しなきゃとか着替えなきゃとか、思うのに体が動かない。
だってドキドキする。
体中を高速に血液が巡って全身が熱くなってくる。
なにこれ、恋ってこんなにときめくものだったっけ。
*
結局、出来たのは着替えだけだった。
まつげをいじろうとした時に電話が来て、私はいてもたってもいられず、「駅まで行く」と伝えた。
『俺が近くまで行きますから』
「駅にいるんでしょう? うちは駅から五分だから大丈夫よ。大通りから入ると入り組んでるから分かりづらいし」
『でも深夜ですし。危ないですから』
呼び出しておいて何を言う。
半ば呆れつつ表通りまで出ると、走ってくる人影が見えてきた。
「あっ……」
一瞬、彼は私を通りすぎて立ちどまる。
「失礼ね、化粧してないから分からなかったんじゃないの」
「そんなことありません。いつもと格好が違うから分からなかっただけです」
確かに、ジーンズに綿シャツは私のイメージじゃないだろうけど。仕方ないじゃない、こんな夜中に足出してふらふらしていたら変な男に襲ってくれって言ってるようなものだわよ。
数家くんは、汗を腕で拭いつつ、呼吸を整えた。
「なんか飲む?」
「ああ。そうですね。えっと」
「部屋来る?」
「は?」
空気が固まる。
いや、部屋に誘ったのはそういう意味じゃなくてね?
「や、いいです。こんな夜中に女性の部屋に行けません。自販機かコンビニないですか」
「あっそ。こっちよ」
真面目だな。
つか、ここでたじろがれるのって脈が無い証拠なんじゃないのか?
なんなのよ、情熱的に家まで来たかと思いきゃその態度。