“毒”から始まる恋もある
「でも採用担当はアンタと舞波くんでしょ。責任持って二人で行って、嫉妬深い彼氏に怒られてりゃいいわよ」
「刈谷先輩、そんなこと言わないでください」
「私は忙しいのよ。給与計算だってしなきゃだし」
「手伝いますから!」
「だったら嫉妬深い彼氏と行けばいいでしょ」
「司さんも最近忙しいんです」
予想外に菫が必死だ。
でも、この子がこれだけ食いついてくるのってかなりの成長。
以前だったらすぐ諦めて、一人で困ってたはずだ。
「……もう、仕方ないな。私昨日も行ったばかりなのに」
でも途中で帰ってきたし、注文されてたからマトモにメニューも見てないんだけど。
「でしたら都合の良い日でいいですから」
「……いいわよ。今日行きましょ。明日は休みだしさ。たまにはアンタとサシってのも悪く無いわ」
「ありがとうございます。じゃあ、給与計算手伝います。今日舞波さんがいないので、採用関係はこれ以上進められないので」
「あっそ」
そこまで言うのなら、ガンガンにしごいてやる。
給与計算用のソフトを立ち上げ、入力作業を三分の二やらせる。
さすがに心配だから一応確認したけれど、予想外にちゃんとやれていて驚いた。
自信がないだけなのよね。この子は。
根を詰めた作業をやらせても集中力はとぎれないし、最近じゃ人前で発表することにも慣れてきたみたいだし。
「……なんですか?」
「いーえ、なんでもないわ」
悔しい。
里中くんに魔法をかけられた菫は、シンデレラみたいに幸福と自信を手に入れた。
じゃあ、意地悪な義姉みたいな私は、どうしたら幸せになれるの?
魔法使いは、私みたいな女には見向きもしない。
自分でできる努力はしてる。
だからこれ以上はどうしたらいいのか分からない。